もーいいかい??

 

少年は遊びの天才だった。

 

 

木登り、缶蹴り、色鬼、ケイドロ、陣取り…

いつだってどの遊びにも全力で

負けることはほとんどなかった。

 

中でも好きだったのは"かくれんぼ"

 

息を潜め自分だけの秘密基地に潜り込む。

オニに見つからないかなというドキドキ。

けど、心のどこかでは早く見つけて欲しくて。

そういうときに限って催す小便。

そんなあるあるは今はいらない笑

隠れるのが上手く、中々見つけてもらえず、自ら出ていったことだってあった。

 

オニになることはほとんどなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2018.2.11

 

 

俺は朝が嫌いだ。

彼女らと別れ1人になった朝が。

 

テーブルには2つのコップ。

お菓子の残骸。

いつもなら重ねて使われているはずの

横に並んだ2つの枕。

そして、部屋の所々に残る

彼女たちのわずかな匂い。

 

妙に小綺麗な部屋。

8畳ほどの小さな部屋は

やけに広く

 閑静な住宅街とはいえ

あまりにも静かだ。

 

 

 

 

着いてるよ

 

あゆみ(仮)(21)からのライン。

 

数日前にネトナンで知り合った女の子。

彼女は介護士、バドミントンが大好きで

驚くほどに脚が細くスタイルが良くて

顔がキツめであることも含めて

タレントの菜々緒とよく言われるらしい。

 

明日、藤邸の近くで

朝早くからバドの試合があるらしく

それに備える為に

今日うちに泊まりに来ることになっていた。

 

ラインでのやり取りはまあ悪くない。

食いつきもそこそこありそうだ。

 

ただ、明日の試合の為に泊まるという

理由付けが合理的なのが少し気になる。

 

こたつに入り同じソファに座り

色んな話をした。

アプリで会ったことのある男の人の話。

スポーツの話。

似ている芸能人の話。

 

宇野○磨に似てるよね?!

 

似ている芸能人リストに

また新しく1人加わった。

 

テレビをつけると平昌オリンピック。

競技は男子フィギュアスケート

選手は…??

 

ほら、君が出てるよ!!!

 

なんたる偶然だろうか。

これはナンパの神様がくれたチャンスかもしれない。

 

あーーかっこいいー!!

 

え?宇野○磨って俺に似てるんだよね?

 

うん、似てる!

 

じゃあ、宇野○磨がカッコいいなら…?

 

うん、カッコいいと思うよ!?

 

(あれ?顔刺さってます?笑)

 

食いつきは上々。

体も密着してるうえに

冗談で頭を小突いたり

顔を俺の膝に押し付けても拒否はない。

 

チャンネルを変えると

山崎○人主演のドラマ。

キスをすると人が死ぬという

全くもって意味不明なドラマ。

だが、チューする映像が

こんだけ流れる点に関してはナイスとしか言えない。

 

ここですかさず、恋愛トーク

元彼のことで彼女が辛い思いを抱えているのは

電話時点で既に知っていた。

 

話したらきっと泣いちゃうから

 

じゃあ俺バスタオル新しく買っとくわ!

 

なにそれ笑

 

電話ではそう話していたが

聞いていいか確認すると

元彼の話は

話したくないというので実際には聞き出さなかった。

 

彼女は高校からその元彼と

付き合って、別れて、付き合ってを繰り返し

合計で3年間付き合っていたため

彼氏はその元彼1人。

そして、その元彼とズルズルとセ〇レのような関係になり

そこから抜け出したいのに抜け出せずにいるらしい。

経験人数はプラス1人、2人。

 

(いくか?いけるか?)

 

が、つい先日の負けが頭をよぎる。

 

(いや、今回は大丈夫だ。)

 

ギラつく。

 

ドラマを見ながら

 

俺たちもしてみよっか?笑 どっちが死ぬか笑

 

(どうだ?いけたか?)

 

打診後の反応、ギラのあとの反応

これを待つ間はいつもやけに時間が遅く感じる。

 

 

 

 

 

 

あのね、私初対面の人とはしないって決めてるの。

 

 

出た。グダだ。

残念ながら

俺はまだ形式グダとその他のグダを見極めるスキルを持ち合わせていない。

 

あれこれと言葉を並べて崩そうと試みる。

 

が、しかし

 

いま、崩そうとしてるでしょ?笑

 でも、私信念は120%変えないから。

 初対面ではしないって決めてるの。ごめんね。

 

明日のために来ただけだし、友達も近くにいるからそっち行こうかな。

 

本気で言ってるのか分からないが

声のトーンは低めだ。

 

また、負けた。

この前と全く同じだ。

 

(”初対面では”って言ってるし、準即狙うか)

 

ツイッターに半分やけくそで負けツイートを流す。

 

負けも認めた。

もう何も考えなくていい。

ただ、せっかく来てもらったのだ。

嫌な思いでは帰ってほしくない。

 

罪を償うかのように 

再び彼女の話を聞くことに専念した。

もう勝つとか負けるとかなんてどうでもよくなっていた。

 

彼女は変わり者だ。

いや、意志が強いのだ。

それ故に、人とさんざんぶつかってきた。

だから、友達は少ないといった。

いじめも受けた。

でも負けなかった。

そんな連中を相手にする必要はないと

生き方を変えずにここまでやってきた。

 

周りに迎合すればある程度人間は集まってくる。

もっと友達作った方がいいかなと思った時期もあった。

けれど、それは自分じゃないと変えなかった。

 

 

俺は心から彼女の性格、生き方に興味を持った。

俺だって常にそうありたいと思って生きてきた。

いや、多くの人がそう思っているのかもしれない。

俺らしく、私らしく、自分らしく。周りに流されず。

だが、それをできる人間は限りなく少ない。

嫌われることを恐れ、白い目で見られることを恐れ

最終的には周りに合わせてしまう。

 

俺は今までの生き方で良かったんだと思うよ。

 そういう人は必ず人とぶつかる。

 だから、嫌われる人からは嫌われるよね。

 でも分かる人には分かるし

 その分、好きでいてくれる人たちからは

 相当好かれると思うんよ。」

 

この子に好かれたくて出た言葉ではない。

 

 

 

 

中学の時の学級委員長。

彼女もまた信念が強く意志の強い子だった。

周りにどんな目でみられようと変えなかった。

 

先生が授業の時間割を忘れていて

チャイムが鳴っても教室に来ない。

 

これ、黙ってたら休みじゃね??

 

教室は盛り上がる。

 

ちょっと、私行ってくる。

 

はーー?黙ってればいいやん?

マジKY

 

彼女はいつもそんな言葉を背中に受けながら職員室に向かっていた。

 

そのとき俺は?

 

完全に多勢側だった。

どっちが正しいかなんてわかっていた。

でも、授業が休みになればいいなという理由だけで

彼女の正義に背いた。

未だに俺はあのときのことを後悔していた。

 

もう、同じ後悔はしたくない。

同じ思いを他の誰にもしてほしくない。

この子には寄り添いたい。

 

 

ホント?確かに、私の友達は良い人ばかりだよ。

 

でしょ?馴れあいの友達はいざというときに離れちゃうけど

 そうやって付き合った友達は

 きっとこの先の人生でいつでもあゆみの味方なんだと思うよ。」

 

コールドリーディングでもない。

恋愛工学でもない。

ウケる技術でもない。

曲がりなりにも20数年生きてきた俺の

素直なありのままの言葉。本音。

ただ彼女に伝えたい思い。

 

ホントに私と同い年?ホントにこの辺が地元?

 話が深すぎて同い年と思えないし

 さっきまで面白かったら関西の人かと思ってたら

 なんか経験豊富そうで都会の人みたい。

 

 

彼女のスペシャルになれたのかもしれない。

彼女にスペシャルを与えられたのかもしれない。

彼女に思いが伝わったのかもしれない。

 

 

いやいや、同い年だし、この県が地元だよ。

 ただ、少し人より考えすぎる性格なだけよ。

 そして、ほらここにも1人新しく友達がいるでしょ?笑

 

純粋に彼女と仲良くしていたかった。

 

え、友達になってくれるの?嬉しい!!

 

じゃあ、そろそろお風呂入って寝ようかな。

 

そういうと彼女は上着を脱ぎ

その上着や下のジャージを

こたつで寝ている俺に被せてきた。

 

(あれ?これもしかしてIOI?)

 

てかさ、藤也くんてホントに彼女いないの?

 

(これも、IOIの質問・・・だよね??)

(何も狙ってないのに、どうして・・・?)

 

そんなとこ立ってたら俺の所からパンツ見えるぞ笑

 うーん、色は黒やな?笑

 

下心も性の意識をさげるなんて意図も何もない。

ただのふざけた会話。

 

ざんねーん、青でした笑

 

そういって彼女はシャワーを浴びて、また戻ってきた。

 

よし、寝るぞ

 

さっき、ギラつきを失敗したときに

別々で寝る、私はこたつで寝る

と言っていたが、さすがに客人にこたつで寝かせられないと

自分はこたつ、彼女は布団に寝た。

 

ねえ、一緒に寝ないの?

 

え、だってさっき別々で寝るって言ったじゃん

 となり行っていいの?

 

うん。

 

そうして、同じ布団の中で並んだ。

 

何が何だか分からない。

なぜこの状況になったのだ。

俺はギラもクロージングもしていないではないか。

 

暗闇の中、静寂と2枚の布団が二人を包む。

 

ふと、彼女が声を発した。

 

そんなに、私としたかった?

 

思わぬ、ドストレートな質問に一瞬たじろぐ。

 

うん。したかった。スタイルめちゃめちゃいいし。

 

でもね、初対面でしちゃったら、その日だけで終わるか

 体の関係だけで続くことを経験してるから。

 私、藤也さんとはそんな関係でいたくないの。大事にしたいの。ごめんね。

 

見つけた。本当の彼女の理由を。

”初対面は嫌”の奥に隠れた本当の理由を。

 

初対面では相手のことがまだ信用できないからしないのだと

俺はてっきり勝手にそう思っていた。

違ったのだ。

最初から体の関係として二人の関係がスタートするのが嫌で

そのあと捨てられるのが怖かったのだ。

 

 

 

俺はいいなと思った子以外は家にいれないし

 そもそもLINEで絡みもしないよ。

 今日だけの関係で終わらせないし、体だけの関係にもならない。

 今度、エッチは絶対にしない、普通のデートをしよう。

 あゆみのセンスで俺の服選んでよ。ね?

 

私、元彼とショッピングセンター行くと

 いつも周りの視線浴びてたよ?

 海行くときなんて見られすぎるからサングラスしてたの。

 

じゃあ、芸能人と歩いてる気分になれるね笑

 

うん。約束ね?

 

うん、約束する。

 

じゃあ、いいよ。はい、どうぞ。

 

 

そして、彼女は無抵抗になり

その全てを俺に預けた。

 

一糸まとわぬ彼女の姿は

やっぱり美しかった。

細く、滑らかなライン。

それでいて、しっかりと鍛えられて筋肉がついた

腹筋と太もも。

 

最初は恥ずかしがっていたが

彼女を取り巻く様々な雑念から彼女は徐々に解放されていく。

 

やっぱり・・・してよかった。

 

ほんと?嬉しい。

 

全てをさらけ出した彼女を引き留めるものはもう何もない。

押し殺していた声も徐々に大きくなっていく。

 

 

 

 

 

ねえ、これお隣さんに怒られないかな?笑

 

 

大丈夫、隣も上も空き部屋だよ笑

 

 

 

 

 

 

朝方、彼女を見送ると

俺は再びやっぱり無駄に広いベッドに潜り込んだ。

2つに並んだ枕を1つに重ねて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年は遊びの天才だった。

 

その少年は大人になり新たな遊びを覚えた。

 

けれど、かくれんぼは続く。

 

女の子の中に隠された

本当の彼女たちが住む秘密の部屋の扉。

それを開くための秘密の鍵。

彼女たちの言葉の裏にある本当の意味。

 

 

見つからないように丁寧に隠れていた。

でも、心のどこかでは見つけてくれることを願っていた。

 

 

もしかすると、彼女たちも同じなのかもしれない。

心のどこかでは、解放してくれることを望んでいるのかもしれない。

 

 

オニになることはほとんどなかった。

 

だが今は違う。

 

今日もまたオニ役だ。

さあ、探しに行こう。

まだ見ぬ女の子たちを。その本当の心を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もーいいかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かくれんぼに乾杯?〜あゆみに幸せあれ〜

 

 

 

 

 

トゥットゥルトゥル トゥットゥルトゥル

トゥッ!トゥッ!トゥッ〜〜♪

 

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